未来のかけらを探して

2章・世界のどこかにきっといる
―23話・なぞかけの炎―



眠い目をこすりながら、テントの外に出たプーレ達。
暑いキアタルでも、夜は砂漠ほどではないが多少温度が下がる。
とはいえ、それでもやや暖かいくらいだ。
砂漠と違い緑豊かなので、温度は安定し、逆に気温は下がりにくいのである。
昼間とは一変し、不気味なまでに静まり返った村の中を、
プーレ達は隠れるようにこそこそと歩く。
(いったいどうしたんだろう……?)
そう思っていると、風に乗って鼻に気になるにおいが届いた。
人間と、ドラゴンと、パサラの親戚種族・カーシーに似た臭い、
他にもかいだことのないにおいがいくつかある。
ものすごい組み合わせだ。
何でこんなパーティが人間の住む辺りにいるのだろうと、
自分達のことを棚に上げて思ってしまう。
実際、その組み合わせのおかしさ加減はプーレ達の上を行くのだが。
「あんまりあっちは行きたくないネ。」
「かっぷりやられちゃうよぉ〜。」
パササとエルンが嫌そうな声を上げた。
無理もない。生物界の頂点に立つドラゴンは、
多くの生き物にとって畏怖と恐怖の対象。
実際けた違いに強いので、例えそれが子供でもプーレ達には脅威だ。
もっとも、出会ったらそれで全てが終わるかといえば、
それは相手の腹具合による。
だがドラゴンは知性的な生き物なので、
無駄な殺しは馬鹿で凶暴なオーガよりはよほど控えめだ。
「でも、あっちからもっと気になるにおいがするんだけど……。」
『気になるにおい?』
「うん。ほら、あっちからにおってこない?」
人間程度の嗅覚なら気がつかないが、
プーレの鼻は気になる臭いを確かに感じ取った。
においは、村の入り口の方から漂ってくる。
そこで村の入り口の方に向かうと、だんだん物騒な気配が漂ってきた。
明らかに、戦っている気配がする。
「わっ!」
『うわぉ!』
近づいて影から様子を伺おうとした途端、突然地面が揺れた。
一瞬ばれたかと思ったが、地面が割れるような轟音にかき消されたようだ。
“これはまた、ド派手にやってるな。”
(ど、ド派手すぎるよぉ……。)
3人は、びっくりして心臓が止まるかと思った。
気を取り直し、こそこそと建物の影から覗く。
すると、7,8歳の黒髪の少年と、
4歳位から10歳位までの少年少女達が戦っているのが見えた。
形勢は、やはり人数のためか黒髪の少年の方が不利なようだ。
傷だらけで、今にも止めを刺されそうに見える。
(ところで2人とも、あそこにいる人見える?)
(ウン、見えるヨ。でも、このニオイって……??)
黒髪の少年のにおいは、何か記憶に引っかかるにおいだ。
かつてパーティを捨ててしまった仲間・グリモーにどこか似たにおい。
年こそ少し上だが、どことなく顔にも面影があるように見えた。
武器も、グリモーと同じくモーニングスターを持っている。
と、あることを閃いたパササは、なぜか古魔法の詠唱を始めた。
(パササ?)
プーレとエルンが、いぶかしげにその様子を見守る。
やや精神集中を省いたのか、パササの詠唱はすぐに完了した。
(我が魔力、炎となりかの者を焼け。ヒート!)
黄色味を帯びた炎が、パササの指先から放たれて飛ぶ。
標的は、黒髪の少年だろうか。
「な、なに?!」
「うっそぉ!あ、あれって確か?!」
戸惑う子供の声と、ヒートを知っているらしい少女の声が聞こえる。
炎は気になるにおいの主と、少年少女達の間を横切るように草むらに降り立った。
燃料を得て、炎は見る見るうちに大きくなる。
すると、黒髪の少年は突然目を見開き絶叫した。
「ホノオ……・?!!ウギァァァァァァァァァ!!!」
少年は崩れ落ちるように地面に膝をつき、頭を押さえて苦しみ出した。
冷や汗がどっと流れ出ているその様子は、尋常ではない。
(あの様子、まさか……!!)
「な、なんだ?!」
一体何がおきたのか分からないらしく、
戦っていた事も忘れて少年達は互いに顔を見合わせた。
そっと木箱や建物の陰から様子をうかがうと、
人間の姿をした者達はもちろん、
宙に浮く不思議な動物まで、皆困惑した様子が見える。
種族を問わず混乱しているようだが、無理もない。
「クソ……『アイツ』ガウルサイ……。キョウハミノガシテ……ヤ、ル。」
少年はわけのわからないことを言いながら、
ようやく痛みが治まったらしく、ふらりと立ち上がる。
戦いで傷だらけになっているため、分が悪いと思ったのだろう。
「待ちやがれ!」
我に返った銀髪の少年が、逃げようとする少年に斧を片手に飛び掛る。
しかし次の攻撃を喰らう前に、
彼はその場からふっと掻き消えるように姿を消した。
(あ、いっちゃった。どうしよっかぁ……。)
姿こそ違っても、もしかしたらと思ったのが。
がっかりしたらしく、エルンがしょげた声を出す。
“確認する前に逃げられたな……。
とりあえず火はもう回収しとけ、パササ。ほっとくと火事になる。”
(あ、そっか。戻れ、ヒート。)
パササが小さくささやき、炎を手元に回収する。
発動に使った力が切れるまで残しておくと、切れる前に火事になりかねない。
証拠隠滅のため、回収した火はルビーが吸収してしまった。
“それじゃ、帰るか。”
(そうだね……もうねむいし。)
ふわあっと、プーレが眠そうに大あくびした。
他の2人もよく見ると眠そうだ。
眠気が吹き飛びそうな事態を見届けておいて変な話だが、
やはり三大本能の力は強烈である。
用は済んだ以上、この場に留まる意味はない。
プーレ達は、少しだけ早足でこっそりその場を後にした。


「おいお前ら!ちょっと聞いていいか?」
と、ほんの少し歩いたところで、後ろから突然怒鳴られた。
正確には、ちょっと声を張り上げていただけのようだが。
「え、何を?」
知らない人間にいきなり話しかけられて、プーレは目を丸くした。
ちょっと聞いていいかといきなり言われても、何の事だかさっぱりだ。
「ナニナニ〜??」
「お兄ちゃんたち、まだ起きてたのぉ〜?」
まったく人のことを言えないセリフだが、
とりあえず関係ないとごまかすつもり、なのかも知れない。
その言い訳の趣旨がずれているのは、エルンらしいが。
「ねえお嬢ちゃん。
さっき、お嬢ちゃんたちが歩いているほうから火が飛んできたから、
そのことについて聞きたいんだけど。いい?」
10歳くらいだろうか、アイスブルーの髪の少女が少しかがんで優しく言った。
お嬢ちゃんといいながらプーレの方を見ている事に気がつき、
プーレは思わず思考が凍りかけた。
だが相手はわかっていないらしく、少女は首をひねった。
「いいけど……えーっと、ぼく、これでもオス……ううん、男の子なんだけど。」
いきなり性別を間違えられ、プーレはかなり引きつった。
ところどころつまりながらも、とりあえず間違いは正そうと自分の性別を告げた。
その言葉で自分の失態に気がつき、少女の顔が一気に青くなる。
「え?!そ、そうだったの……ごめんね。」
よりにもよって性別を間違えてしまったことに慌てて、
アイスブルーの髪の少女は、しどろもどろになりながらもとにかく謝る。
ある意味名前を間違えるよりもひどいのだから、
当たり前のことである。
「いいよ、みんな間違えるみたいだし……。」
もうあきらめきった顔をして、プーレはつぶやいた。
この長い髪と服装のせいか、人間にはよく女の子と間違えられる。
間違えなかったのは、人間以外しかいない気がする位に。
「で、話を変えるけどよ。
お前ら、何でおれらの方に魔法ぶっ放したんだよ?」
「え〜っと、それはネェ……。」
銀髪の少年に詰め寄られたが、さて、どう答えたものだろうか。
まさか何も知らない相手に、
「知り合いに似た奴がいたから実験しました」とは言えない。
良い言い訳が思いつかず、パササは目を泳がせて口を濁す。
「それは?」
「……ちょっと、お兄さんたちがたたかってた相手が、気になったんだ。」
見かねたプーレは、仕方なく真実に近いことを口にした。
訳ありだと向こうは感じたのだろう、
相手は興味を惹かれたような空気になった。
「えーっと……それはどういうことですか?」
「うーん、話すと少しめんどくさいんだけど……。
前にいなくなっちゃった仲間に、ちょっとだけにてたから。」
通りすがりの相手に説明したくもないので、理由を大幅にはしょる。
だが、それで当然納得させられるわけがない。
むしろ、余計に不審に思われたようだ。
銀髪の少年が、あきれたような視線を送ってくる。
「よけいにわからねえよ……。」
どこの世界に、昔の仲間に魔法を飛ばす奴がいる。
少年達のうちの何人かは、そういう目でプーレ達を見てきた。
そこでようやく、墓穴を掘ったことに気がつく。
結局、もう少し詳しく話す羽目になった。
「イヤー、そいつ火が大っきらいなんだよネ。」
「つまり、火を見ておびえたり逃げたりしたら、
そいつかもしれないって思ったのか?」
パササが上ずった声で答えると、
あきれ返ったような顔をして紫の髪の少年が聞いてきた。
心底馬鹿にしきっているような態度が、少々嫌だ。
しかし彼からはドラゴンのにおいがするので、怒らせるわけにはいかない。
エルンがパササの代わりに話を続ける。
「そうだよぉ〜。3人で相談したんだぁ。」
「でも、火を見たら誰だってこわくて逃げると思うんやけどなー……。」
宙に浮いている動物がもっともなつっこみを入れるが、
パササとエルンはきょとんとしている。
年長者から見れば、プーレ達の行動は浅はかで短絡的なものに過ぎないのだ。
本人達にそれ相応の理由があっても、
筋が通っているとはみなしてくれないのである。
「え〜、でもグリモーのはすごいからすぐにわかるよぉ。」
「グリモーって、火がきらいな子の名前?」
「ウン、そうだヨ。」
今度は納得してもらえたらしく、
少年達はエルンの発言にはつっこんでこなかった。
大体想像がついたのだろう。
「そういう事情とはいえ、ずいぶん乱暴なことをしますね……。」
七三分けで丸メガネの少年は、いささか呆れたように言った。
理屈っぽいタイプなのだろう、
パササやエルンの思考にはついていけないようだ。
「う〜ん……まあ、そうかも。
ところでお兄さんたち、丸っこくて透明で、
このくらいの大きさの宝石がついたペンダント知らない?」
プーレは、手で小さな丸を作ってみせる。
その大きさは宝石にしては破格の大きさで、プーレの手のひらくらいはありそうだ。
普通は聞いたところで首を傾げられるのがオチだが、
どうやら銀髪の少年はぴんと来たようだ。
「……その丸っこい石って、もしかしてダイヤモンドみたいな石か?」
銀髪の少年が戸惑いがちに聞いてくると、
パササはぱっと目を輝かせて手のひらを合わせた。
「あ、大当たり〜!すごいね、ダイヤモンドのこと知ってるノ?!」
「知ってるも何も、それはおれの国で今行方不明になってる国宝だよ!
おれも今、それを探してるんだ。」
これは奇遇というべきか、
いきなりこんなところで六宝珠探しのライバル発見である。
まさか、これほどの人外魔境パーティが相手とは思いもしなかった。
しかしダイヤモンドが国宝とは驚きだ。
「え?!『鍵』なのにペンダントなの?!」
「まあ……ちょっと変な言い方かも知れへんけど、そうなんや。」
銀髪の少年の仲間も、彼が探しているものを知らなかったらしく、
多くがプーレ達とは違った理由で目を丸くする。
確かに、『鍵』という呼び名なのにペンダント状という事実はおかしい。
ペンダントが鍵などという話は、いまだかつて聞いたことがない。
「カギなのにペンダントって、おかしいよー……。」
「うるせー、国でみんなそう呼んでるんだよ!」
つっこみを仲間から入れられて、銀髪の少年が怒った。
おかしいといわれても、彼の国ではみんなそう呼んでいるらしい。
ペンダントの形だろうと『鍵』は『鍵』、のようである。
「ねぇ、それっていったいなんのカギなの?『六宝珠』じゃないのぉ?」
鍵、鍵といわれても何の事だかさっぱりだ。
どうやって鍵穴に差し込むのかも、気になるところである。
話がわからないことに痺れを切らしたエルンが、不思議そうに聞く。
『六宝珠?』
急に飛び出した聞きなれない名詞に、4人分の声がダブった。
「って、あんた知らないの?!」
アイスブルーの髪の少女が、
信じられないといった様子で銀の目の少女を指差した。
先ほどから、仲間間でのコミュニケーション不足が目立つのは気のせいだろうか。
「実は知ってましたとか言わねぇだろーな?!」
「だってー、アタシは地界の細かいところまで知ってるわけじゃないも〜ん。」
彼女本人はあっけらかんと言ってのけるが、
他の仲間は疑いのまなざしを向けている。
多分、彼女は普段物知りなのだろう。
「六宝珠だと〜……?お前ら、そんなものを集めてどうするつもりだ?」
「うわ、ドラゴン……。」
冷たい視線をこちらに向けながら一歩前に進み出た紫の少年を見て、
プーレ達は思わずおびえた。もう本能に近い。
「そりゃドラゴンは怖いですよねー……。
って、何で坊やたち見ただけで分かったんですか?!」
緑の髪の少女が、はっと気がついて少年たちにつっこみを入れた。
確かに紫の髪の少年はパープルドラゴンだが、見た目は魔法で人間そのまま。
普通見破れるはずはないのにと、少女に言外に指摘された。
「あ、ヤベ!」
「やべじゃないでしょ、パササのばか……。」
「今のは聞かなかったことにシテ☆」
パササが、元気にむちゃくちゃなごまかし方をする。
今さらごまかす方法を思いつけるはずもなく、プーレはため息をつくしかない。
今までそれなりにごまかそうとしていた努力が、一気に水の泡だ。
しかも今の言葉で、外見以外に相手の正体を判別しようがない人間などにも、
プーレ達が人間ではないと知れてしまった。
「だまれ下等生物ども。
たかが動物の分際で、ドラゴンをごまかそうなんて1000年早い。
貴様らの正体なんざ、最初からにおいでお見通しだ。」
『が〜〜〜〜ん……。』
紫の髪の少年に冷たく宣告されて、プーレ達は3人ともショックで落ち込んだ。
やはり子供でも大人でも、ドラゴンには叶わないらしい。
しがない短命種の下等種族の身の上では、仕方ないが。
「あっはっは、ほんっと面白い子達だね〜♪
うーん、やっぱりこういう上級種族にない感覚って新鮮〜。」
憮然とした紫の髪の少年の横で、銀の目の少女がけらけらと腹を抱えて笑い出す。
しかし、銀髪の少年は笑うどころではない。
「どこがだよ!こいつらの相手してるとめちゃくちゃ疲れるじゃねーか!
こっちまで馬鹿になっちまう!」
パササやエルンのようなタイプにはいらいらさせられるだけらしく、
銀髪の少年は、元々つりあがった眉をさらに吊り上げて怒鳴る。
もちろん、こちらも馬鹿にされて頭にこないわけが無い。
「あ〜、ひどいよぉ〜!破滅の歌をうたってやるぅ〜!!」
『それはやめてーー!!』
案の定、エルンの堪忍袋の緒が切れた。
ハープを構えて歌おうとする彼女を、パササとプーレが必死に止める。
銀髪の少年たちは知るわけもないが、これだけはやばい。
謳われたら最後、相手もこちらも全員再起不能になる。
「……で、もう一度聞くが、お前たちは六宝珠を集めてどうするんだ?」
また話がそれたせいか、いらいらした様子で銀髪の少年が問いただす。
その問いにプーレたちはそろって考え込むが、
集めてシェリルのもとに持っていくことを言っていいものか。
困った挙句、難しそうな顔をしたプーレが苦し紛れに一言つぶやく。
「集めて……どうするんだっけ?」
銀髪の少年が、はすうっと息を吸い込んだ。
「おめーらの脳みそはゴブリン以下かぁぁぁぁぁ!!!」
『うひゃぁぁ!』
時間などお構いなしの大音量の罵声を浴びせられて、
プーレ達は考える前に耳をふさいだ。
たまったものではない。
「ちょっとリトラさん!今何時だと思ってるんですか?!」
「うるせー!どうせ地下とかに逃げてるんだからいいだろうが!!」
「そういう問題やないで〜!!」
すっかり半バーサーカーと化した銀髪の少年、
もといリトラの怒りは留まる所を知らない。
緑髪の少女が怒っても、宙に浮いた動物がたしなめても、
彼はまるで聞く耳を持たなかった。
むしろ、止めようとすればするほど火に油を注ぐ結果になっている。
「まあまぁ、怒るとよけい馬鹿になるよぉ?」
「余計って何だ!こぉんの空っぽオーガ頭!!
てめーの頭にゃ、脳みそなんて入ってないだろ!!」
なだめる気がどこまであったのかは謎だが、
エルンのとんちんかんなセリフは当然彼の怒りを促進した。
「うわ〜ん、ひどいよ〜!
ハープカッターでぐちゃぐちゃにして夜食にしてやるぅ〜!!」
「んだと〜?!」
「あ〜もう、両方ともいい加減にしてよーー!!」
お互いの言葉でお互いを怒らせる結果となったエルンとリトラの、
けんか状態に近い視線がぶつかる。
このままではいつ殴りあいになってもおかしくない。
プーレがたまりかねて怒鳴った直後。
“まあまあ、そこまでにしとけって。”
突然その場に居た全員の頭の中で、
場に似つかわしくない飄々としたエメラルドの声が響く。
『?!』
「え?え?」
アイスブルーの髪の少女やピンクの髪の子供が、
きょろきょろと辺りを見回している。
だが当然彼女らの見ている範囲に声の主はいない。
“あーごめんごめん、驚かせたか。
そうだな、喋る時に袋の中からじゃちょっと失礼だ。”
エメラルドが、またテレパシーを飛ばす。
すると袋の口を勝手に緩め、
彼は中から大きな丸っこい正方形をした自分の姿を露出させた。
澄んだ深い緑に輝く石の中には内包物一つなく、キャンディを彷彿とさせる。
正方形の一辺には、金と銀かプラチナを組み合わせたチェーンが取り付けられている。
重さがたたって袋に放り込まれているとはいえ、
やはりこの姿は、初めて見る人間の度肝を抜くものらしい。
少年達の中には、あっけに取られているメンバーがちらほら見受けられる。
“ぷはー、やっぱり外の空気はいいな。”
「お前口なんてないクセに……。」
パササがボソッとつぶやく。
しかし、親父くさいセリフをはいた当のエメラルドは意に介さない。
そのセリフ一つで、最高級の見た目がかもす高級感も台無しになった。
当のエメラルドは、分かっているのかいないのか不明だが。
「こ、これがえーっと……ろくほーじゅ?」
色々な意味であっけに取られたピンクの髪の子供が、気の抜けた声で聞いてきた。
いきなり口を利いた挙句、こんな態度で出てこられたので無理もない。
“うむ、いかにも我が名はエメラルドである。”
えらそうな口調のテレパシーを飛ばしているが、
親父くさいセリフを言った後では、ありがたみも威厳もあったものではない。
一部のメンバーは宝石が喋ったと大騒ぎしていて、
紫の髪の少年と銀の目の少女が、それを冷めた目で見ている。
多分馬鹿にしているのだろうが、
普通石は喋らないのだから、それで馬鹿にするのは酷というものであろう。
「何えらそーにしてるんだよぉ〜!
いっつも重いだけで、ぜんぜん役に立たないくせに。
しかもしゃべり方までわざと変えてるしぃ〜。」
“なんだと。いいじゃないか、初対面の奴らの前でえらそうにしたって。
第一印象で、「あ、こいつすごいんだな。」って印象付けたほうが得だろう?
お前ら、第一印象の重要さを知らないな?”
エメラルドが辺りに飛ばすテレパシーで、少年達はさらに力が抜けていく。
もうすでにこのノリについていけないようだ。
頼むから、これ以上あほなせりふを言うのをやめてくれと、
顔にはっきり書いてある者もいる。
「もうやめてよ〜……『だいいち印象』だかなんだか知らないけど、
すっごくばかにされてるよー……。」
プーレの言うとおり、特にリトラと紫の髪の少年は、
こちらを馬鹿にしきった目で見ていた。
無理もないことだが。
(いい加減俺の理性の限界だ。こいつら、食い殺してやろうか……。)
((やめてください!!))
ぼそぼそと紫の髪の少年が物騒なことをつぶやき、
それをまた小声で2人の少年少女が制する。
それを横目で見て、げんなりした顔でリトラは小さくため息をつく。
それから、これが最後だというように1つ聞いてきた。
「おいお前ら、六宝珠探してるんだろ?
てことは、ダイヤモンドも手に入れる気があるんだよな?」
リトラが、にらむような目つきでプーレたちを見据える。
急ににらまれて、思わず一瞬身がすくむ。
「ウーン……まぁ、いちおう手にいれ」
パササがそういいかけた瞬間、リトラの片眉がつりあがった。
プーレはまずいと思い、ガバっと片手でパササの口をふさぐ。
「むががっ。」
「て、手に入れたらそのとき考えるから!って、わけだから……さ、さよならー!」
三十六計逃げるにしかず。
言うが早いか、プーレはパササとエルンの腕をつかんで、一目散に走って逃げる。
これ以上追求されたらたまらない。
「あ、待てこら!」
そんないい加減な返事で納得できるかとリトラが声を張り上げたが、
呼ばれて待つ奴はここにはいない。
脱兎より早いチョコボの逃げ足で、
プーレ達はまんまと闇にまぎれて逃げおおせたのであった。
思わぬ形で遭遇した六宝珠探しのライバルは、
なかなか手ごわそうである。
少なくとも、そのうちに1名が怒りっぽいことは確かだった。



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とりあえずストックのおかげというべきか、2ヶ月経つ前にアップ。
その代わり、地の文の人名の書き換えが面倒でしたが(撲殺